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備忘録としてのweblog

【おすすめ出来ない職業だらけ】伊坂幸太郎作品を読んだら死神か泥棒(あるいは殺し屋)になりたいと思うよね

雨と共に登場して、音楽を愛してやまない。誰のことか分かるだろうか。千葉さんのことだよ。千葉さんは死神だよ。人の姿をした死神だよ。モテそうだよ。千葉さん。男の子は憧れます。死神のような男。なんの話でしょうか。これは。

伊坂幸太郎氏の小説「死神の精度」に出てくる死神、千葉さんの話です。なぜ、いきなり千葉さんの話をするかと言うと、昨日読んだからです。「死神の浮力」。

「死神の精度」じゃなくて、「死神の浮力」です。死神の精度は読んだ人も多いでしょう。なんせ、100万部売れてますから。凄いですね。代表作といっても過言ではないでしょう。

映画化もされてます。

しかし、伊坂幸太郎作品の映画化率は凄いですね。そしてキャストも魅力的だし、ほとんど全部面白い。ほとんど全部と言ったのは、僕が全ての作品を見てないからであって、見れば全部面白いのだと思う。

死神の精度

死神の精度は短編集の形式でしたね。連作短編といった方が正しいかもしれませんが。なにしろ、読んだのは10年くらい前なのであまり覚えていません。ただ、やけに面白かった記憶があります。

伊坂幸太郎作品の中で人気なキャラクターの1人に「クロサワ」がいますよね。彼は死神ではなくて、泥棒ですが、黒のイメージがあります。(まあ、名前にクロ入ってますし)

小説に出てくる黒いイメージの登場人物って魅力的ですよね。主人公がカッコいいことって小説の成り立ち的に達成しにくいと思います。カッコいいキャラクターは、主人公の目線から造形されることが多いです。グレート・ギャッツビー形式ですね。

そんな中で、死神が主人公だったら読み手の期待値は上がります。なんと、まあ贅沢な小説でしょう。となります。なりませんか?

そして、実際に面白かった。そして、たくさん売れた。

カッコいい主人公を据えて、小説的に成立させて、しかも面白い。それが「死神の精度」なのです。それは、主人公が人間でないもの=死神という設定によって機能しています。

ストーリーの主人公は、死神に見守られる人間です。死神は、その人間を傍観しています。まあ、死神ですから、当たり前ですね。この構成の妙が、「死神の精度」に浮遊感を与えています。

死神千葉さんの人間離れした感性と言いますか、人間界とのズレもまた、読者にクスリとさせる場面を産みます。これはもうあれですね。アイデアが出た時点で、勝てると思ったでしょうね、伊坂幸太郎氏は。

もちろん、アイデアを小説として昇華させる筆力があるからこそできることですが、もう面白いに違いない。そして、実際に面白いのが「死神の精度」です。その続編があれば、読みたいと思わずにはいられません。

死神の浮力は長大だった

1つの大きなストーリーが展開されます。「死神の浮力」は。面白かったな。ついつい、一気読みして、自分の仕事に手がつきませんでした。

その前に「火星に住むつもりかい?」

という、これもまた伊坂幸太郎氏の長編小説なのですが、読んでいました。通底する薄暗さを感じさせました。

過去作品の「重力ピエロ」や

「モダンタイムス」など、

伊坂作品には暗いトーンの作品があります。

筆致の軽さと洒脱(よくこのように評されていますね)さによって、作品全体としてはライトな感じがしますが、多くの作品の根底には暗さがあります。まあ、暗さを描かなければ小説が書かれる意味なんてそもそもないのかもしれませんが。

「火星に住むつもりかい?」は、暗いです。1984年を彷彿とさせる世界観で・・・、

といえばありがちな表現ですが、監視社会や生贄というテーマを、より現実的なスケールで描いています。テーマ・キーワードがあらゆるところに散りばめられているので、とても一言では言い表せませんが。

続けて、「死神の浮力」を読んだことで、伊坂幸太郎の暗い通奏低音がより聞こえました。ストーリ自体も暗いですし、なにせ長編ですから。短編的の小気味良さではなく、より重厚なストーリーであることは当たり前なのですが。

つまり、「死神の浮力」は、死神の精度から引き続く面白さと、重厚な長編小説としてのテーマ性が共存している作品なのです。これは、面白くないわけがありませんね。

相変わらずの仕掛けも満載です

伊坂幸太郎氏を評する最も多い言いまわしといえば、ストーリーテラーでしょうか。その呼び名に相応しく、「死神の浮力」でもストーリーテラーっぷりは如何なく発揮されていましたね。本当に、最後まで何が起こるか分からないという展開に次ぐ展開です。

ただ、やはりと言いますか、面白いだけじゃないということが、伊坂幸太郎氏の魅力であり、人気を支えている部分であると思います。

不条理や人間の矛盾、全体と個人、法律と倫理など、作品を追うごとに、テーマに対して研ぎ澄まされた答えを導きだしている印象があります。「死神の浮力」はそれほど新しい作品ではありませんが、伊坂作品に通底する暗さ・テーマの根幹が、死神の目を通して浮き彫りになっている作品でした。

あ、そうそう。「死神の浮力」のテーマというか、重要な要素として、「サイコパス」が大事な要素になっています。

死神とサイコパスの共演って面白いにきまっているだろうという、感じですね。

ストーリーの主人公はやはり凡庸である

だけど、ストーリーの主人公は凡用な人間です。読んでいるこちらが、イライラするほどの凡人です。平凡な夫婦の物語です。そして、夫は小説家なんですよね。小説家というのは最も伊坂幸太郎に近い立場なはずで、小説家をストーリーの中核に置いたのなら、深いことが書けるはずなんですよ。

だけど、そのような言及はありません。小説についての深い洞察なんかもありませんしね。ただただ、ストーリーの中で感情を揺らしている小説家なのです。いつか、小説家を主人公にした、小説についての小説も読んでみたいですね。でも多分書かないだろうな。ストーリテラーだから。

書くとしても、画家だとか音楽家になりきって、『書く』ことについて語るのでしょうね。

月と6ペンスや、騎士団長殺しみたいに。